すぐき漬、しば漬と並ぶ「京都三大漬物」の一つである「千枚漬」。聖護院かぶらを薄く切って、昆布、唐辛子で酢漬けにしたものです。
御所の瑞兆を表現した姿と味わいは、優雅で繊細、まさに京漬物の代表格といえます。
ここでは、「千枚漬」の歴史や由来、製法・豆知識を紹介します。

千枚漬の歴史と由来

「千枚漬」の起源は、慶応元年1865年といわれています。孝明天皇の宮中で、大膳寮に仕えていた大黒屋藤三郎が、職を退いたのち「大藤」の店を起こして売り出した漬物(浅漬け)が「千枚漬」でした。

藤三郎は、宮中で仕えていた際、尾花川漬として売っていたカブの漬物からヒントを得て「千枚漬」を編みだしました。聖護院の里のかぶを見出し、過去の料理経験を生かしたことが成功へとつながりました。

その頃の鈍色で味の濃い保存食だった時代の漬物とは違い、新たに登場した淡い薄味の浅漬けは、宮中で大評判になりました。

「千枚漬」の由来には、かぶらを薄く切って、木樽に漬け込む枚数が千枚以上になること、かぶらを千枚といえるほど薄く切って作ることがあげられます

御所の瑞兆とは?

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 ”「千枚漬」は、御所の瑞兆を表現していますとはじめに記載させてもらいましたが、少し補足させてもらいます。

「千枚漬」と御所のつながりですが、「千枚漬」の生みの親である大黒屋藤三郎「千枚漬」を作る際、御所に勤めていた頃に思いを馳せたことにあります。

かぶらを玉砂利(白砂)、きょう菜を松の緑、昆布を庭石の黒に見立て、御所の風景を表現しています。

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千枚漬の美味しい季節は

「千枚漬」の販売期間は、聖護院かぶらの生産時期と同じです。
11月~翌年3月頃まで、販売もこの期間に限定されます

聖護院かぶらは、関西地方で栽培されている大型のかぶです。直径18~20㎝ほどの大きさで、きめ細かくやわらかくて、ほのかに甘みがあります。

京都が原産ですが、滋賀県の「近江かぶ」が起源といわれています。
盆地特有の昼夜の気温差、濃い朝霧が栽培に適しているのも関係しています。

もともと根菜類は季節の霜を被ることで、益々身が引き締まり甘みが増してきます。冬が厳しいほどかぶらに味がのり、「千枚漬」はより美味となります。

「千枚漬」が冬の代表格といわれる所以はそこにあるのです。

千枚漬の製法

厳選された聖護院かぶらの表面の皮むきをして、かぶらの形を整えます。
清水できれいに洗い、素早く5㎜くらいの厚さに薄く切っていきます。

スライスされたかぶらを均等にのばす→木樽に敷き詰める→塩をふる→かぶらを一面に敷き詰める→塩をふる・・・繰り返します。(下漬け※1)

塩ふりは毎年変わるかぶらの状態に合わせて行います。下の方は薄い目に、上の方は濃い目にふります。下へ行こうとする塩がかぶらに均等にしみ込んでいくようにするためです。

重石をして2日間ほど下漬けをしたあと、木樽をひっくり返します。

余分な水分が取り除かれたかぶらを、一枚一枚取り上げ、本漬け用の木樽に移していきます。木樽にかぶらを一面に敷く→昆布を敷く→砂糖・味醂・酢を配合した調味液を振りかける・・・繰り返し行います。

2~3日間、味を馴染ませます(本漬け※2)

長く保存するための漬物とは違い、旬の聖護院かぶらをその冬まで漬け込み、そのシーズンで食べるぜいたくな漬物です。

賞味期限は樽出し3日~7日くらいで、まさにその素材の善し悪しが味に影響します。

※1下漬け・・・漬物を作る際、本漬けの前に塩漬けにする下ごしらえのこと。材料の余分な水分を抜き、本漬けの味を馴染ませる。

※2本漬け・・・下漬け後、再度調味料の効いた液に漬け込んで、熟成(漬け込み)させたもの。

なり田の「千枚漬」は、北海道産昆布により引き出される聖護院かぶらのまろやかな甘さと、シャキッと小気味のよい食感に仕上げており、優雅で京漬物ならではの上品な味わいを楽しめます。

寒さも厳しくなる12月頃、千枚漬・新漬すぐき・きょう菜漬をセットにした詰合せを多くご注文いただきます。年末年始のご挨拶や、お世話になった方・大切な方への心づかいとして、お選びいただいております。

走りの千枚漬と名残の千枚漬

千枚漬は、聖護院かぶらの収穫される時期によって、味にも変化が現れます。
食べ方や楽しみ方の違いを紹介していきます。

〇走りの千枚漬〇

樽出し直後、11月中旬は「走りの」千枚漬と呼ばれています。
かぶらが柔らかく、少しフルーティーな味わいです。

≪食べ方≫
何もつけずそのまま食べることをおすすめします。
年末になると、正に「旬」です。冷気によりかぶらが少し固くなり、さらに糖度が上がってかぶらの旨味が前面に出てきます。

味の濃い食事のあとの締めに・・・
お茶漬けのお供にどうぞ。少し醤油をたらして、きょう菜と合わせてお試しください。このシンプルさが良いんです!

なり田の千枚漬詰合せには、きょう菜も含まれています。千枚漬の甘さときょう菜漬のシャキッとした食感、シンプルな浅漬けの味わいが、京都の”はんなり”を表しています。併せてお召し上がりください。
冬の期間でしか味わえないので、ぜひこの機会にどうぞ。

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〇名残の千枚漬〇

1月下旬、霜の張った大地で寒気にさらされたかぶら。この時期は、野趣溢れる豊満な旨味を醸し、「名残の千枚」と珍重されています。

≪食べ方≫
「千枚漬」自体の味がしっかりとしているので、スモークサーモンや生ハム、オリーブオイルや黒胡椒との組み合わせも◎。ぜひワインを片手にお楽しみください。

さいごに

「京都三大漬物」の一つ、「千枚漬」。すぐき漬、しば漬に比べると、その歴史はまだ浅いですが、各々がもつ歴史や背景は今なお色濃く伝えられています。

たとえ「千枚漬」の発祥は、「大藤」であっても、私たちの先人たちへの思いや敬意に何の違いもありません。先人たちが残してくれたものを、語り伝えていく、それだけです。

各お店によって、味の違いはあるかもしれませんが、「千枚漬」は御所の瑞兆を表現した創始者の思いは、そのまま形として残っています。

私たちは、これからも京漬物の歴史に思いを巡らし、なり田でしか出せない”味”や”魅力”をみなさまに届けていきます。

※販売は11月頃を予定しています。

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