「一汁三菜」は、和食を主とする私たちにとって、馴染みのある言葉です。「一汁三菜」の意味はなんとなく理解していても、ちゃんとした意味や歴史まで目を向けることはあまりありません。良い例として、漬物(香の物)が、「一汁三菜」の「副菜」としてカウントされないことを知っている方はいるのでしょうか?
ここでは、「一汁三菜」の意味や歴史についてお話します。
一汁三菜とは?
和食の基本といわれる「一汁三菜」。
日本人の主食である「ご飯」に、「汁物」と3つの「菜(おかず)」を組み合わせた日本料理(本膳料理)のことを指します。
「一汁三菜」を意識した食生活によって、からだに必要な「エネルギーになるもの」「からだをつくるもの」「からだの調子を整えるもの」という3つの栄養素を、バランスよく摂ることができます。
<主食>
エネルギー源である炭水化物を補給。和食ではお米が基本。
<汁物>
水分を補給。和食の場合は味噌汁が基本。
→汁物があると食事が食べやすくなる、食事に潤いを与える。
<三菜>
主菜1品、副菜2品で構成。主食を美味しくいただくためのおかず。
主食と汁物だけでは不足している栄養を補います。
主菜:食事の主役、肉・魚・豆腐・卵などのたんぱく質が中心の料理。
副菜:野菜やいも、大豆製品などを中心にした小さなおかずです。主菜に足りない栄養を補います。
副々菜:漬物や和え物、お浸しなどの野菜や海藻を中心としたおかず。果物などでも◎
※香の物(漬物)があれば、独特の旨味が加わり、さらに美味しくなります。
香の物は副菜としてカウントしません(主菜・副菜・副々菜の三菜である“副々菜”)
一汁三菜の献立ポイント
毎日継続して健康的な一汁三菜を用意するために、大事なのが三菜の選び方と献立づくりです。もちろん、栄養さえしっかり摂れれば、おかずの数は一菜でも二菜でも問題はありません。一番バランスよく過不足なく栄養を摂取しやすい基本のかたちが三菜です。
一汁三菜の献立を考えるうえで、ポイントは3つです。
①味に変化をつける
甘い、辛い、酸っぱいなど、献立の中でできるだけ味つけが重ならないようにします。例えば、天ぷらのようなこってりとしたおかずには、さっぱり味の酢の物を添えると口直しになり、一段と食べやすくなります。
味にバリエーションがあると、食事も飽きがなく最後まで美味しく味わえますね。
②食材が重ならないようにする
献立を一汁三菜にするだけでも、炭水化物、たんぱく質、ビタミンなどがバランスよく摂取することが可能ですが、
料理ごとに食材が重ならないようにすると、さらに栄養バランスが整った献立に。
また、たくさんの食材を使うことで、料理の彩りがよくなるメリットもあります。
③それぞれ調理法を変える
炒める、焼く、煮る、和える、揚げるなど、おかずごとに調理法を変えると、素材の食感に変化が生まれ、バラエティ豊かな食卓に。煮る間に和える、炒める間に電子レンジにかけるなどの同時調理ができ、段取り良く作れるメリットもあるので、うまく取り入れたいですね。
一汁三菜で知っておきたい用語集
「一汁三菜」を知るために、まずは和食に関係する用語を理解しておきましょう。
<和食>
日本料理や日本での家庭料理のこと。洋食と対比的なことば。
<日本料理>
和食とほぼ同義。主に懐石料理や精進料理、おせち料理などを指す。
<本膳料理>
日本料理の正式な膳組みのこと。
懐石料理や会席料理は含まない。
<膳組み>
日本料理の献立を立てるときに、どの料理を出すか決めること。
<一汁三菜>
膳組みの一種。主食・汁物・主菜・副菜二種で構成されている。
一汁三菜の歴史
これまでは現代における一汁三菜を説明しましたが、本来は古来の「本膳料理」、「懐石料理」というかしこまった食事があげられます。
両者の一汁三菜の発祥と歴史を見ていきましょう。
「本膳料理」の一汁三菜
一汁三菜は「本膳料理」を発祥としています。
「本膳料理」とは、室町時代に確立された武家の饗宴の席の料理のことです。
食事ではありますが、礼儀作法とともにその確立にも決まりがあり、
そこで「一汁三菜」という献立が誕生しました。
「本膳料理」における一汁三菜の献立は、飯、汁、香の物(漬物)、なます、平(ひら、煮物)、焼物です。「本膳料理」の「三菜」とは、なます、煮物、焼物と調理法が決まっています。香の物は「三菜」に数えません。
これは、古来の日本では奇数がめでたい数字とされ、反対に偶数を使うことは避けられていました。特に四は「死」を連想するため数えないようになったとされています。現代の一汁三菜でも漬物を「三菜」に含まないのはその名残です。
<本膳料理~一汁三菜の配膳例>
本膳料理」においては、主菜の「焼物」のみ別のお膳で提供されます。
また、「本膳料理」には、一汁三菜以外にも一汁五菜や三汁七菜などの献立があります。
その中で「一汁三菜」は品目の少ない簡素なものとされています。
「懐石料理」の一汁三菜
懐石料理での一汁三菜とは、茶の湯の席前に振舞われる料理です。
それは刺激の強い「お茶」を空腹のまま飲むことを避けるために用意された、メインの「お茶」のための前菜のような扱いとなっています。
懐石料理の献立は本膳料理と同じものとなり、飯、汁、香の物(漬物)、なます、煮物、焼物ですが、配膳に違いがあります。
懐石料理は、「温かいものは温かいうちに、冷たいものはより涼やかに」というおもてなしの心から、料理は複数回に分けて提供されます。
同じ一汁三菜の献立でも、飯と汁のおかわりや、煮物、焼物を順番に出していくところに懐石料理の特徴があります。
また、焼物は大皿から取り分けることとなり、取り皿には空いた「なます」のお皿や煮物の蓋を使う場合もあります。
そして最後に漬物が出されます。
<懐石料理~一汁三菜配膳例>
さいごに(まとめ)
現代では、お膳で食べる機会は旅館や料亭といった限られた場所になります。
ですが、今もなおこうした「一汁三菜」の献立の組み方は残っています。
「一汁三菜」にすることで、食事の栄養バランスを整えることができるからこそ、時代は変わった現在でも和食の基本は「一汁三菜」なのです。
食はからだをつくる上で、大切な資本でもあります。外食も良いですが、コロナ禍で規制されているこの期間に、食の改善として「一汁三菜」を意識した食生活をはじめたいですね。